TOEICは、TOEFLやSAT、GREと同様に米国にある非営利テスト開発機関である Educational Testing Service(ETS)によって開発・制作されています(日本におけるTOEIC Programの実施・運営は(一財)国際ビジネスコミュニケーション協会によって行われています)。
ところが、海外の大学や大学院を受験する際に求められる英語のテストスコアはTOEFLやIELTS、PTEが中心で、TOEICの公式スコアを英語力の証明として受け入れているところは多くありません。例えば、日本における知名度も高い東海岸の一流校であるハーバード大学のビジネススクールにおける留学生の英語力については、以下の通りの記載があります。
The MBA Admissions Board discourages any candidate with a TOEFL score lower than 109 on the iBT, an IELTS score lower than 7.5, or a PTE score lower than 75 from applying.
このように、TOEFL 109点以上、IELTS 7.5以上、あるいはPTE 75点以上という基準を目安としており、TOEICに関する記述はどこにも見当たりません。
あるいは、西海岸の一流校であるスタンフォード大学のビジネススクールにおける留学生の英語力については、以下の通りの記載があります。
We accept the following English-language tests:
- Test of English as a Foreign Language (TOEFL)
- International English Language Testing System (IELTS)
- Pearson Test of English (PTE)
ハーバード大学とrequirementは異なりますが、スタンフォード大学もTOEFL 100点以上(PBT 600点以上)、IELTS 7.0以上、あるいはPTE 68点以上という基準を設けており、同様にTOEICのスコアで英語力を証明することはできません。
「TOEICは世界中で受験者がいるインターナショナルな試験であり、そのスコアは世界中で通用する!」という意見もあれば、「TOEICは日本と韓国くらいでしか受験者がおらず、限られた地域でしか通用しない試験だ!」という意見もあります。実際に、TOEICはどこまで世界に通用する国際的な試験と言えることができる試験なのか見ていきましょう。
TOEICの歴史
公式サイトには、TOEIC開発の背景について以下のような記述があります。
1970年代、円が変動相場制に移行し、日本経済が世界経済という枠に組み込まれました。(中略)もっと多くの日本人が英語によるコミュニケーション能力を磨く必要がある。そのための実効性のあるプログラムを開発しよう。そのような発想を元に日本人の手によってTOEIC L&Rの開発プロジェクトが動き出したのです。
このように、そもそもTOEICは日本の発案により始まったプロジェクトであり、多くの日本人が英語によるコミュニケーション能力を磨くことを大きな目的としてスタートしたプロジェクトなのです。
そしてこのプロジェクトは、米国ETSとの折衝を通じ、テストとして実現していくこととなったのです。その記述が以下の通りです。
ETS(Educational Testing Service)は米国ニュージャージー州プリンストンに本部があり、設立されたのは1947年。世界最大の非営利テスト開発機関として知られ、アメリカの大学への留学に課せられるTOEFLをはじめ、アメリカの公共機関や学校関係のテストの大半を開発・制作するという実績を持っていました。そのような理由からプロジェクトメンバーは、「テスト開発に豊富なノウハウを有し、開発を依頼するのに最も相応しい」と考えたのです。1977年9月から折衝を開始し、2年の研究開発を経てTOEIC L&Rが実現しました。
したがって、TOEICは「日本の発案により開始したプロジェクトで、開発は実績ある米国ETSによって行われた」テストであると言えます。そういった歴史的背景を見れば、日本人の受験者数が多いという点は納得がいくでしょう。
TOEICの国別受験者数
TOEICは、特定の文化を知らないと理解できない表現が排除されており、世界中の誰もが公平に受けることができる「グローバルスタンダード」として活用されているという点に特徴があります。日本発案のテストであっても、日本人に特段有利・不利が生じないテストとなっているということができます。
TOEICの国別の受験者数は、過去はWorldwide Reportの中で公表されていたのですが、近年は公表されていません。現在インターネット上で手に入るレポートの中では、The TOEIC® Test Test of English for International Communication Report on Test Takers Worldwide 2005の中に、国別の受験者数が掲載されています。少し古いデータとはなりますが、本レポートによると、
日本:65%
韓国:12%
その他:23%
となっており、全世界の4分の3程度が日本と韓国の受験者で占められており、「グローバルスタンダードとして世界約160カ国で実施」されているTOEICですが、その受験者の分布には大きな偏りがあると言ってよいでしょう。
国別のTOEIC平均スコア
最新のWorldwide Report(2018年4月時点)である2016 Report on Test Takers Worldwide: The TOEIC® Listening and Reading Testでは、国別のTOEICの平均スコアについて公表されています。以下、その抜粋を示します。
1位:カナダ(833点)
2位:ドイツ(789点)
3位:スイス(783点)
4位:ベルギー(782点)
5位:チェコ(767点)
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19位:韓国(679点)
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41位:日本(516点)
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48位:マカオ(443点)
49位:インドネシア(397点)
このレポートに基づく順位を見てどのようなことをお感じになるでしょうか。「日本は平均点が低いからもっと点数を上げていかなくてはならない」とか「日本は順位が低いのでもっと上位を目指さなくてはならない」などと考える方が多いのではないでしょうか。もちろんそういった観点は重要で、上で述べたようにTOEICは「もっと多くの日本人が英語によるコミュニケーション能力を磨く必要がある」という考えのもと開発されたテストですので、日本人の英語力の底上げを図り平均点・順位を上げていくことは重要です。一方別の観点から見ると、「別に日本人の平均スコアが低いことはそんなに問題ではないかもしれない」といったポイントや、「そもそもTOEICは国際的な、世界で通用する試験なのか」といったポイントも見えてきます。
① 日本人の平均スコアが低いことはそんなに問題ではないかもしれない
TOEICは全世界で毎年およそ700万人が受験しており、そのうち日本の受験者はおよそ250万人を占めています。この250万人の中には、英語の勉強、あるいはTOEIC対策を入念に行った上でハイスコアを目指しているような受験者もいるでしょうが、「学校や会社に受けろと言われたから勉強はしていないが受験した」といった方や、「とりあえず申し込んでみたが何も勉強しないうちに試験日がきてしまった」というような受験者も相当数いるものと考えられます。
一方、少数しか受験していない国々の人は、皆それぞれの受験する理由をもって受験をしているはずです。特に途上国の受験生については英語の勉強やTOEICの受験にかかる費用を考えると「誰でも受けられる」というようなものではなく、一般レベル以上の教育を受けている人、言い換えればその国のエリート(あるいはエリート候補)が受験者の中心であると考えられます。そういった場合には国全体として見たときの平均点が高くなることは明白でしょう。
また、ランキングの1位にいるカナダはそもそも英語が公用語(カナダではフランス語も公用語です)であり、英語が公用語に国に住んでいる人が受験をすればそのスコアが高いことは容易に想像できるでしょう。
しかし、日本と同じく多くの受験者がいる韓国の平均点や順位は日本よりも大幅に高く、これは韓国の英語教育の水準が日本よりも高く国全体として英語力が日本よりも高い、ということができるのではないでしょうか。この点は認識しておくことが必要でしょう。
② そもそもTOEICは国際的な、世界で通用する試験なのか
本記事のテーマでもある「TOEICは世界で通用する試験なのか」という観点で、この国別平均スコアから考察できることがあります。それは、TOEICが「グローバルスタンダードとして世界約160カ国で実施」されている試験であるにも関わらず、順位表には49の国と地域しか掲載されていないという点です。この疑問に対しては、同レポートの以下の部分がその回答を得るのに役立ちます。
Only countries with more than 500 TOEIC test takers are included in this table.
つまり、160の国と地域で受験されているとして、およそ110の国と地域ではそれぞれ受験者の数が500名以下しかいないということです。年間500名に満たない受験者数の試験は、その国における知名度は非常に低いであろうと言わざるを得ず、TOEICが実施されている国々160カ国全ての国で、英語試験のスタンダートとして通用する試験ではないと言えることができるでしょう。
TOEICは受験する価値のある試験なのか
ここまで述べてきた通り、TOEICは「グローバルスタンダードとして世界約160カ国で実施」されている試験ではあるものの、そもそもの成り立ちとして「多くの日本人が英語によるコミュニケーション能力を磨く」ことを目的として開発された試験であること、また、国ごとの受験者には大きな偏りがあり、日本や韓国以外の国ではそれほどメジャーな英語試験であるとは言えないという点を、やや批判的な観点から見てきました。また、海外の大学や大学院の受験に際し、英語力を証明するスコアとしても利用できないケースが多く、TOEICのスコアが世界で通用するものではない部分についても、こちらも批判的な観点から見てきました。
しかし、だからと言って、TOEICが受験する価値がない試験であるか、といえばそうではありません。TOEICの高いスコアを目指して英語を勉強することで英語力が上がっていくという一つの大事な指標になりますし、また、大学の入試や単位認定、あるいは企業における採用、昇進・昇格のための基準となっているケースもあり、少なくとも日本人が英語の勉強をして、日本国内で受験をすることには大きな価値がある試験であると言うことができるでしょう。また、従来のTOEIC L&Rだけではなく、TOEIC Speaking & Writingを受験することによって単純なマークシートの試験ではなく、より実践的なコミュニケーション能力を測り、そしてその勉強を通じて実践的な英語でのコミュニケーション能力を磨くことができるでしょう。
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